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福岡高等裁判所 昭和50年(ラ)23号 決定

抗告人 小泉花子(仮名) 外二名

相手方 木下常雄(仮名)

主文

一  原審判を取消す。

二  本件を長崎家庭裁判所に差戻す。

理由

一  抗告人らは別紙抗告状記載のような抗告理由により主文同旨の決定を求めた。

二  抗告の原因二の(一)の(1)相手方の収入に関する部分のうちの(イ)について、

原審判は相手方木下常雄が勤務先である○○重工業株式会社長崎造船所から受けた昭和四八年一二月から翌四九年一一月までの一年間の給与の手取り額を二五四万二、一九五円のみと認定しているが、同造船所勤労部○○勤労課長の調査嘱託回答によれば、相手方は右の外昭和四八年一二月と翌四九年七月に合計八一万六、七六三円の年末及び夏期一時金(手取り額)の支給を受けていることが明らかであつて、これも同人の給与の中に含まれるので、これを加算すると同人の前記一年間の給与年取額は右額だけ増加することになる。

三  同(ロ)について、

原審判が相手方の年間給与年取額と認定した二五四万二、一九五円のうち一二四万二、三二二円は残業手当等恒常性を欠く手当収入であつて、将来も継続するとの保証がないので、これを控除した約一三〇万円のみが相手方に扶養料支払義務があるかどうかの判定の確実な資料となり得るとしていることも抗告人ら主張のとおりである。

しかしながら、前掲回答によると右残業手当等の額が毎月一定額ということはできないとしても、今日の民間労働者の賃金体系の通常の姿からすれば、これが労働者の毎月の収入の重要な一部をなし、決して一時的な臨時収入ではなく、本件のような扶養請求審判事件において、相手方の扶養能力判定の資料に供する場合、右額を殊更恒常性のない収入として除外することは適当でないというべきである。

したがつて右の点についての抗告人らのその余の主張につき判断するまでもなく、相手方の収入の計算につき残業手当等を控除すべきでない旨の抗告人らの主張は理由がある。

四  同(ハ)について、

家庭裁判所調査官作成の調査報告書によると、相手方の右期間中の給与からの控除額中には一五万円の自動車購入費が含まれていることが認められるが、相手方の手取額算出の場合これが控除されるべきでないことも抗告人ら主張のとおりである。

五  そうすると、相手方の収入の前記認定の誤りが審判に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の抗告理由につき判断するまでもなく、原審判は不当として取消した上本件を原裁判所に差戻すべく、家事審判規則第一九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤秀 裁判官 諸江田鶴雄 森林稔)

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